• 三橋美穂

114. 「やらない」をやるに価値がある

(2018/05/01)



みなさんは「リストラティブ・ヨガ」をご存知ですか? 先日、インストラクター養成講座を受講して、知識と体験を深めてきました。


リストラティブとは、「回復させる」「取り戻す」という意味。毛布やボルスター、アイピローなどの補助具を使って完全なリラックス状態をつくり、深い休息を得ることができる癒しのヨガです。雑誌で目にしたことはあったのですが、たくさんの道具を使うので、そのときはまったく興味が湧きませんでした。

なぜ最近になって興味を持ったのかといえば、リストラティブ・ヨガの代表的なポーズの一つが、電動ベッドで背中と足を上げた状態に似ていることに気づいたからです。私は寝具の開発もしているので、研究のためにベッドとマットレスは3台、マットレスの上に敷いて寝心地を変えるオーバーレイマットレスや敷きパッドは10種類以上、枕は30個以上持っています。そして、3台のベッドのうち1台は電動ベッドで、今はこれをメインで使っています。

「電動ベッド=介護ベッド」というイメージがあると思います。導入を決めたきっかけは腰痛になったことでしたが、腰痛が治った今でも愛用しています。電動ベッドで背中と足を上げて、膝を曲げる姿勢をとると、とてもリラックスして、寝つきがよくなるからです。電動ベッドでのリラックス体験と、リストラティブ・ヨガがつながって、入眠姿勢の洞察が深まりました。

リストラティブ・ヨガは補助具を使ってポーズをつくったあとは、そのまましばらく(ポーズによって10~20分)じっとしているだけ。道具に身をゆだねながら体をゆるめていく動きのないヨガで、「やならいヨガ」とも呼ばれています。何かを「している」感覚はまったくないのですが、私自身の体によい変化が現れました。実は最初にそれに気づいたのは、私が通っている鍼灸の先生で、あまりの変化に治療の手が止まってしまったほど。その先生の様子を見て、私は効果を実感したのでした。

最近は、定期的にリストラティブ・ヨガをやっています。先日はレッスンの最後に頭の中がシーンとなって、その日の夜は驚くほどぐっすり眠れました。一見、何もせずにじっとしているだけなので、これほど効果があるとは、思ってもいませんでした

私たちは「やること」が好きで、何かやっていると安心し、やることがないと不安になったります。手帳の予定が埋まっていないと不安、という人もいました。

「やらない自分=怠けている」 「やらない自分 =進歩がない」 「やらない自分 =置いて行かれる」 「やらない自分 =あきらめている」

そんな意識がありませんか? 多かれ少なかれ、そういう人がほとんどだと思います。 でも、「やらない」を意図的にやることは一つの積極的な行動です。

最近は、スマホやパソコン、インターネットを一定期間「やらない」、デジタルデトックスも注目されています。外部との繋がりを断つことで、内的な自分と繋がって癒され、リフレッシュすることができます。

先日、私がスマホを忘れて出かけたときのことです。いつもは電車に乗ると、考えもせずスマホでメールやニュースをチェックしているので、ちょっと手持無沙汰な感じはしましたが、脳への刺激が減って、心は穏やかでした。プチ・デトックスの体験です。

そして睡眠は、究極の「やらない」だと思います。外側で目に見える活動は、何もしていないのですから。ただ、横たわっているだけのように見えます。だから私たちは、睡眠をとることに抵抗があるのではないでしょうか。睡眠時間を削って、活動する時間を増やそうとしているのではないでしょうか。一度しっかり睡眠時間をとってみてください。「たっぷり眠っているのに、時間に余裕がある」という体験をするでしょう。

人生は、自分がやりたいことを全てできるわけではありません。睡眠時間をとるために、やらないことを明確にしていくと、自分がやりたいことが浮かび上がってきます。まるで「ルビンの壺」のように。そして、「あれもやらなきゃ、これもやらなきゃ」という頭の中の雑音が消えて、本当にやりたいことに自然に集中できます。

脳機能を回復させて集中力を高め、体のコンディションを整えるのが睡眠です。 「やらない」価値の大きさを発見したあなたがいたとき、 「やらない」を意図的にやっているあなたがいたとき、 予想を超えて、外側で高いパフォーマンスを発揮しているあなたを体験するでしょう。