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  • 執筆者の写真三橋美穂

170. ナイチンゲールから学ぶセルフケア

(2023/01/01)



近代看護の礎を築いたフローレンス・ナイチンゲールは、1820年イギリスの裕福な上流階級の家庭に生まれました。幼少期から語学や哲学、経済学、天文学、心理学、歴史学など、

当時の女性としてはめずらしい高等教育を受けていました。とくに数学に熱中していたそうです。



ナイチンゲール家では貧しい人々を助けるための慈善活動を行っており、そのことが後に彼女の運命を決定づけます。



ナイチンゲールは生涯で4回、神の声を聞いたとメモに残しています。最初は16歳のとき、こう語りかけられたそうです。



「神に仕えなさい。自分の信じる道を進むのです」



24歳のとき、彼女は看護の道を目指すことに決めました。当時イギリスでは飢餓が蔓延しており、病院での慈善活動を通じて、不安や貧困、病気に蝕まれている人々を目の当たりにしました。「自分の信じる道は、貧しい人や病人を助けること」と思い至り、16歳のときに聞いた神の声に対する答えを見つけたのです。



しかし両親は猛反対。

富裕層にとっては医者が家に来る往診が当たり前で、病院は下層階級の病人が集まる不潔な場所だったのです。看護師は世話係のような仕事で、身分の低い女性がつく職業でした。



それでもあきらめず勉強を続けました。両親が認めてくれたときには30歳になっており、ナイチンゲールはこう書き残しています。



「今日で私は30歳。キリストが伝道を始められた歳。

 もう子供っぽいことは終わり。恋も、結婚も。

 主よ、どうぞ御心のみを、私への御心のみを為してください」



ナイチンゲールは90歳で亡くなるまで生涯独身で、看護改革に邁進しました。



彼女を一躍有名にしたのは、34歳の時クリミア戦争での看護活動です。劣悪だった病院の衛生環境改善に乗り出し、最大42.7%に達していた死亡率を、わずか数カ月で2.2%にまで引き下げたのです。



兵士の死因のほとんどがケガではなく、病院の不衛生な環境による感染症でした。とくに以下の5点を強調しています。


1、換気の重要性

2、過密を避けること

3、家屋や手指の清潔

4、清浄な水

5、陽光



患者の包帯を巻くために8時間もひざまずき、重症な患者ほど窓辺に移動して陽光を当て、負傷した足を切断する兵士に付き添って励ましました。夜はランプを掲げて病床を見回り、その献身的な働きぶりから「クリミアの天使」と呼ばれ、看護師が「白衣の天使」と呼ばれる由来になっています。



戦争が終結した36歳のとき、ナイチンゲールはイギリス国内の病院における看護、衛生改革に乗り出します。彼女は統計学の先駆者としても知られており、円グラフや棒グラフもない時代にレーダーチャートの先駆けとなるグラフを作成して病院の状況分析を行い、政府へ働きかけました。



その1年後、37歳のとき過労による心臓発作で倒れてしまいます。90歳で亡くなるまで、ほぼベッドの上での生活を余儀なくされたため、本の執筆や手紙による交渉、指示等が主な活動となりました。生涯で150点を超える印刷文献と、12,000通以上の手稿文献を残しています。



40歳で「ナイチンゲール看護学校」設立、著書「看護覚え書」を出版します。この本は、現在でも看護の教育現場で活用されており、ナイチンゲールは執筆の目的を

「他人の健康について直接責任を負っている女性たちに、考え方のヒントを与えたい」

と記しています。男女の役割が変化した現代では、すべての人の健康管理に役立つ内容です。



「看護とは、新鮮な空気、陽光、暖かさ、静けさ、

 清潔さを適切に整え、食事を適切に選択し管理すること」



これらは質のよい睡眠をとることにも共通しています。ナイチンゲールは重病の人ほどベッドを窓際に移動しましたが、日光浴が自然治癒力を高めることを、経験的に知っていたのです。



日光浴は精神を安定させるセロトニン分泌を促し、夜間の睡眠ホルモンであるメラトニンの分泌を高めます。免疫力やカルシウム吸収量も上がり、健康的に過ごすために陽光は欠かせないものです。



ナイチンゲールは「病気とは回復過程である」と定義しています。


 人体には自然の回復システムが常に発動しており、

 そのシステムに乱れや混乱が生じたときに、

 何らかの症状が出現する。


 それを私たちは「病気」と呼んでいるが、

 看護はその回復システムが最大限発動しやすいように

 生命力の消耗を最小にしながら、最良の条件を

 生活過程の中に創り出すことである。



この観点の大きさに感銘を受けました。病気を治すべきものと捉えると葛藤が生じますが、回復過程だと捉えると肯定的になるからです。



「不眠とは回復過程である」としたとき、不眠を回復させるシステムが最大限発動しやすいように、運動をしたり、入浴で体温を上げたり、寝室環境に気を配る。この回復過程を通して生活習慣が変われば、睡眠だけでなくメンタルやパフォーマンス、コミュニケーションなどすべての分野に好影響をもたらすでしょう。



ナイチンゲールの知恵を生活に取り入れて、健康的な一年を過ごしていきましょう。


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